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この1年の間に、ダニエルはカフェでクリスチャンの友人たちと会って、お茶を飲みながら信仰についてじっくり話し合うのをやめた。
アラビア半島の貧しい国イエメンでは、内戦が10年目に入り、日常生活があまりに危険になっていた。ダニエル(安全のため仮名)は、この孤立状態による悪影響を感じていた。国内でのクリスチャンに対する暴力の増大により、この措置は彼の信仰共同体にとって必要なことと思われた。
「彼らが強い信仰を持てなくなるのではないかと、非常に心配しています。」と彼は言う。だが、現在の地政学的情勢からすると、彼の孤独は今しばらく続く可能性が高い。
イエメンだけでなく、スーダン、ソマリア、ミャンマーにおける内戦や激しい紛争を原因とする容赦ない流血は、多くの人々を深く傷つけ、家を失ったり、愛する人を奪われたりした人も多い。オープン・ドアーズが本日公表した2025年ワールドウォッチリスト(WWL)によると、こうした戦争行為により、地域教会はますます活動しにくくなっている。調査担当者によると、暴力にさらされている全世界のクリスチャンの数は2024年には増加し、迫害がもっとも厳しい上位50か国のうち、29か国で暴力が増大したと報告されている。
イエメンは今年のWWLで3位となった。この理由は、表向きはフーシ族反政府勢力と中央政府との10年にわたる紛争だが、ここにサウジアラビア、UAE、イランもそれぞれ支配力を確保しようとして関与している。国内政府が不安定なところに、フーシ派が台頭したため、クリスチャンのような少数派は、人口3,400万の国内で無防備な状態となり、家の教会は閉鎖されていった。
国際的に認知された政府が支配する地域でも、教会の状況はこれより良いとは言えない。一部のクリスチャンは、イスラム教を離れ、イスラム教を「侮辱した」ことを理由に逮捕された。最新の報告期間中、オープン・ドアーズは、もっぱら信仰を理由として、または家族などの虚偽の告発を理由として、政府当局がいやがらせのためにクリスチャンを拘束したことを把握した。
暴力の脅威以外にも、金曜日にモスクに行かないという理由で、クリスチャンは飢餓に苦しみ、社会的集団、食物、医療、経済支援、その他の資源から断絶されていることがしばしばだ。フーシ派は国内の港をブロックして、国内に入ってくるものを制限し、人々がブラックマーケットの人脈に頼らざるを得ないようにさせている。
「フェイスブックのページとか、何かのソーシャルメディア上で、誰かが『イエメンの人たち、あなたたちのために祈っているよ!』と言ってくれるのをぜひ見たいです。」とダニエルは語った。
ソマリアでは、イスラム教武装組織でアルカイダとつながりがあるアルシャバーブが、クリスチャン商人を取引現場で殺害してきた。だが、地域の人や家族も、イスラム教から改宗した近親者を裏切ることがあり、告発された人は殺害の危機に直面しかねない。
ミャンマーはクリスチャン人口が8%を占める国だが、2024年から4ランク上がって今年は13位となった。ほとんどのクリスチャンは6つの少数民族グループの出身だ。カチン地方では、特に2021年の国軍クーデター以降、ある活動家の言葉を借りれば、クリスチャンは「じわじわと進行する大量虐殺」にさらされている。
いずれも上位50位圏外だが、ロシアとウクライナは2025年のWWLでそれぞれ56位と69位に位置する。ウクライナでは、この迫害の大半は戦争と、正教会内部の継続的な権力闘争に関係する。政府が2024年にロシア正教会を禁止した後、多数の教会が閉鎖された。
ウクライナのロシア軍占領地域では、ロシア軍および関係組織がロシア正教会以外の教会を標的としている。ある事件においては、ロシア人武装グループまたは「コサック」が、ウクライナのドネツク地域のウクライナ・ギリシャ・カトリック教会を占拠し、出席しようとする人々の出入りを禁じた。ある神父が彼のウクライナ正教会教区のロシア正教会への編入に反対した時、ロシア軍は彼を投獄14年の刑に処した。
一方、ロシアでは昨年ペンテコステ聖日に、国内でムスリムが大半を占める地域であるダゲスタン出身の拳銃を持つグループが、2つの正教会と1つのシナゴーグを襲撃し、神父1名と6名余りの警備員を殺害した。政府はこの他、ロシア軍の名声を傷つけ、宗教的文書を配布し、詳細不明の宣教活動をしたという理由で、クリスチャンを罰した。
暴力は、クリスチャンが任意の国で直面する危険を判定するためにオープン・ドアーズが用いている6つのカテゴリーのうちの1つだ。暴力に含まれるのは殺害、適切な裁判を伴わない拘束、拉致、器物損壊である。このタイプの恐怖にあう危険が最も大きいクリスチャンはナイジェリアおよびパキスタンにおり、この両国のスコアは16.7ポイントとなった。これは最高限度のスコアであり、全諸国で最高のスコアだ。暴力のスコアの上位20か国の内訳は、アフリカが15か国、南アジアが3か国、東南アジアが1か国、ラテンアメリカが1か国である。
全体として、3億8千万人以上のクリスチャンが、強度の迫害または差別のある諸国に住んでいる。これは世界中のクリスチャンの7人に1人であり、アフリカの信者5人に1人、アジアでは5人に2人、ラテンアメリカでは16人に1人にあたる。
クリスチャンにとって世界で最も危険な50か国にリスト入りした、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国の暴力の指数は、WWLの2023年リスト以来、平均1ポイント上昇した。オープン・ドアーズによれば、この地域は「イスラム教テロ組織による、クリスチャンおよびクリスチャン共同体に対する絶え間ない攻撃」にさらされている。
スーダン内戦は、軍部と地域民兵連合との間で戦われているが、クリスチャンを含む国民に壊滅的打撃をもたらしている。WWLの最新調査期間中、44名のクリスチャンが殺害され、100名のクリスチャンが性的暴行を受け、100件のクリスチャンの家屋や事業が攻撃を受けた。スーダンにはアラブ人と、先住アフリカ民族を出自とする人がいる。後者の過半を占めるクリスチャンは、その信仰と民族的アイデンティティの双方を理由として迫害に直面する。現在、内戦のため、スーダンの人口4,900万人のうち1,100万人以上が避難民となっている。
オープン・ドアーズの分析期間である2023年10月から2024年9月までの間に、信仰関連の理由で殺害されたクリスチャンの数は4,998名から4,476名に減少した。調査担当者はこの減少の理由を、ナイジェリアのクリスチャンに対する暴力の縮小だとしている。同国での殺害数は、2024年のWWLでは4,118名だったのに対し、2025年のWWLでは3,100名となった。だが、数が減少したからといって、ボコ・ハラム、フラニ牧畜民族、ラクラワなどのグループによるクリスチャンへの攻撃が縮小した証拠だと解釈するべきではないと、調査担当者は警告する。むしろ、暴力が今ではナイジェリア北部中央一帯に集中せず、ブルキナファソ、マリ、チャド、カメルーンとの国境地帯に広がっている。
ナイジェリア以外では、信仰を理由に殺害されたクリスチャンの数は昨年比で増加した(2024年WWLの880名に対し、2025年WWLでは1,376名)。この主な理由は、コンゴ民主共和国(2024年WWLの261名に対し、2025年WWLでは355名)、ブルキナファソ(2024年WWLの31名に対し、2025年WWLでは201名。アルカイダ・ネットワークに関連するイスラム聖戦組織の行為による。)などにおける暴力の増大である。
世界中で5千人近く(4,744名)のクリスチャンが、裁判なしに拘束された。これは2020年以来で最大である。最新の報告期間中、インド(11位)では1,629名の拘束が報告された。
教会、またはクリスチャン関係のその他の公共財産に対する攻撃件数(教会閉鎖を含む)は、2024年の14,766件から減少し、2025年には7,679件であった。この主な要因は、オープン・ドアーズが中国の推定数を変更したことである。中国では調査担当者が報告やデータを確認することができない。数値を確認することが不可能な地域については、推定値は10、100、1,000、1万といった概数で示され、実数はそれより多いと推測されている。2024年WWLでは1万件の攻撃が報告されたが、今年は1,000件であった。
オープン・ドアーズによると、ルワンダでは政府が4,000の教会を閉鎖した。その理由として、建築基準や、牧師や神学の要件を満たしていないことが挙げられた。
信仰関連の理由でレイプやセクシャルハラスメント被害に遭ったクリスチャンの数は、2024年WWLの2,622名から増加して、2025年WWL報告期間中は3,123名となった。2025年の報告は、被害者のトラウマや社会的タブーの存在ゆえに、この数字を集計することには困難があると記している。困難が伴うもう1つのデータは、クリスチャンの非信者との強制婚の件数だ。オープン・ドアーズによると、この件数は2024年WWLの609件から増加し、2025年WWL報告期間中は821件であった。
暴力行為によって、クリスチャンはしばしば故郷を離れ、別のところに安全を求めざるを得なくなる。オープン・ドアーズは2025年WWLにおいて、183,709名のクリスチャンが安全を求めて国内避難民となったと報告する。この数値は、2024年WWLの278,716 名から減少を見た。自国を離れた人の数は、2024年WWLの16,404名から増加し、今年の報告では26,062名であった。
ほとんどの場合、この強制された移動を正確に測定するのは不可能だ。そこで、ここでも調査担当者は概数を推定した。推定値は控え目で、攻撃や残虐行為の「絶対的最小限の数字」を表し、実数はこれを相当上回る可能性が高いと強調されている。オープン・ドアーズの推定によると、本報告期間中にアゼルバイジャンは、1万名のクリスチャンを信仰関連の理由で国外に追いやった。本誌の2023年の記事によると、アゼルバイジャン軍の侵入後、民族的アルメニア人10万人がナゴルノ・カラバフ地方を追われた。この紛争には民族的・政治的理由が絡んでおり、宗教も理由の1つではあるが、重大な理由ではないとオープン・ドアーズは述べている。
一部諸国では、教会は迫害により地下に追いやられ、調査担当者は教会の状況についての情報を追跡するのが困難になっている。今年のリストでは中国は15位と、2024年の19位から上昇し、「教会が比較的公に存在していた時代は、いっそう記憶のかなたに沈んでいっている」と記されている。
アフガニスタンのクリスチャンは、社会的にいっそう身を潜めることによってタリバンに対応し、政府の抑圧範囲を限定してきた。タリバンは、その支配地域においてクリスチャンの存在を消し去ろうとしていると言われ、ほとんどの信者は、タリバンのイスラム法廷で裁かれるのを避けるため地下にもぐっている。ごく小規模のコミュニティが家庭で集まり、敵対的環境下で福音を分かち合おうとしている。
しかし、この隔離状況はまた、クリスチャンに対して行われた可能性のある攻撃の検証を困難にしている。その結果、オープン・ドアーズは今年アフガニスタンを10位にランクし、2022年の1位から順位を下げたものの、暴力のスコアは5であり、上位10か国中で最小であった。
アルジェリアは15位から19位に下がり、オープン・ドアーズが教会に対する新たな攻撃はなかったと報告したことから、全体スコアが2ポイント減少した。これは喜ばしい兆候のように見えるが、政府が国内の全プロテスタント教会を閉鎖したため、新たな攻撃の余地がなかったのである。暴力的事件がなく、教会もない中、アルジェリアの全体スコアは減少した。
ガザのクリスチャン・コミュニティは、2023年10月にイスラエルとハマスの戦争が始まって以来、1,000名から700名そこそこに減少した。少なくとも300名のクリスチャンがこの地域を離れ、ガザで少なくとも43名の死亡が報告されている。オープン・ドアーズはパレスチナ自治区(西岸地区を含む)を62位にランクしている。
中東とアフリカは引き続きクリスチャンにとって危険な場所だが、東南アジアやラテンアメリカの一部諸国では状況は改善した。
インドネシアでは、新たな大統領の選挙に国が集中している間、教会に対する攻撃件数と死亡数が大幅に減少した。テロ対策努力により、世界第4の人口を誇るこの国の暴力のスコアは、11.5ポイントから5.7ポイントに下がり、国のランクは2024年の42位から59位に後退した。9月に、教皇フランシスコは宗教間対話を促進するための努力の一環として、インドネシアの首都ジャカルタを訪れた。これは、世界最大のムスリム多数派国としてのインドネシアの地位を考えると、特に意義深い。
コロンビアでは、かなりの領土を支配するゲリラグループや麻薬カルテルの存在ゆえに、彼らの目的に反対する者は、教会も含め、暴力の標的になる可能性があるという状況が生まれている。2024年2月に、停戦によりクリスチャンに対する暴力は減少し、この国の全体スコアは2ポイント低下し、ランクは46位となった。
オープン・ドアーズはニカラグアも希望の兆しがある国に含めた。仮に2022年にEUによって、また2024年に米国およびカナダによって科された制裁がなければ、状況は悪化していたかもしれないとオープン・ドアーズは主張する。これらの制裁は、ダニエル・オルテガ大統領夫妻およびロサリオ・ムリーリョ副大統領を含む21名の個人を対象とし、資産凍結および渡航禁止などをその内容とする。
ワールドウォッチリスト報告期間の12か月の間に、94名のクリスチャンが国外追放された。その大部分はローマカトリックの神父だが、牧師および宣教師も含まれる。ニカラグアは2025年WWLで30位となったが、これは前年度と同順位である。
CTはこれまでにWWLのランキングを2024年、2023年、2022年、2021年、2020年、2019年、2018年、2017年、2016年、2015年、2014年、2013年、2012年に報告してきた。2010年には、信者であることが最も困難な諸国のスポット記事も掲載してきた。CTはこの他2017年に、米国が迫害主体国リストに含まれるかどうかについて専門家の意見を聞き、2019年、2018年、2017年、2016年、2015年には迫害されている教会についての最もよく読まれているストーリーをまとめた。
オープン・ドアーズ2024年ワールドウォッチリストの全文を読むにはここをクリック。
手法
オープン・ドアーズは、6つのカテゴリーについて各国の点数をつけ、各カテゴリーの最高点は16.7、合計最高点は100である。調査担当者は、40ポイント超を高いスコアと考えている。
その手法は、信者が隣人、友人、親族、社会全体から受ける暴力、および信仰を捨てろという圧力を考慮に入れる。合計スコアは、詳しいアンケートの回答に基づいて算定される。
- 私生活:クリスチャンの内面的生活、および思想と良心の自由。
「クリスチャンが自身の私的スペースにおいて神と一対一で向き合うことが、どれだけ自由にできるか?」 - 家庭生活:クリスチャンの核家族および親戚に関する事柄。
「家族の中でクリスチャンがキリスト教信仰を生きることが、どれだけ自由にできるか?クリスチャン家族がクリスチャンらしく家庭生活を送ることが、どれだけ自由にできるか?」 - 共同体生活:クリスチャンが家族外の地域共同体と行うやりとり。
「クリスチャンが個人として、また集団として、地域共同体内でキリスト教信仰を生きることが、どれだけ自由にできるか?地域共同体はクリスチャンに対して、差別、いやがらせ、またはその他のかたちの迫害行為によって、どの程度の圧力をかけているか?」 - 国民生活:クリスチャンと居住国との間のやりとり。これには権利と法律、司法制度、政府、その他の公共機関が含まれる。
「クリスチャンが個人として、また集団として、地域共同体外でキリスト教信仰を生きることが、どれだけ自由にできるか?法律制度はクリスチャンにどの程度の圧力をかけているか?地域外生活のエージェントは、偽情報、差別、いやがらせ、またはその他のかたちの迫害行為によって、どの程度の圧力をかけているか?」 - 教会生活:思想と良心の自由の集団的行使、特に礼拝、奉仕、信仰の公の表現において、理不尽な干渉なしに仲間のクリスチャンと一緒に行えるかについて。
「制約、差別、いやがらせ、またはその他のかたちの迫害行為が、キリスト教会、キリスト教団体および組織のこれらの権利や、集団生活をどのように侵害してきたか?」 - 暴力:身体的自由の剥奪、クリスチャンに対する重大な身体的または精神的危害、あるいはクリスチャンの財産に対する重大な損傷。これは、他のすべての生活領域における関係性に影響を与え、または関係性を阻害する可能性のあるカテゴリーである。
「こうした暴力は何件あったか?」